コレクション: トラッド|TRAD

トラッド文化

日本の若者のトラッド文化は、イギリスやアメリカの伝統的な服装スタイルを基盤とし、若者たちが自らの解釈で取り入れてきたファッション文化です。特に1950年代から1960年代にかけて、アメリカ東海岸のアイビーリーグ大学の学生が着こなした「アイビールック」が広がり、日本では1960年代に「VANジャケット」などのブランドを通して若者たちの間に浸透しました。

トラッド文化が日本に広がる中で、日本独自のスタイルも生まれました。比較的ライトで上品な着こなしを基盤とするアメトラ(アメリカントラッド)は、ブレザーやチノパン、ローファーなど清潔感のあるコーディネートを中心とし、アイビールックを日本の若者に合わせてアレンジしたスタイルです。一方で、より重厚感のある素材やクラシックなアイテムを用いたヘビトラ(ヘビーデューティトラッド)は、小林泰彦によって提案され、頑丈で男らしい印象を持つスタイルとして定着しました。秋冬のコーディネートやアウトドア的要素を取り入れるなど、実用性と個性を兼ね備えたトラッドの進化形といえます。

さらに、日本においてはファッションディレクターであり著者としても知られるくろすとしゆきが、アイビールックやトラッドスタイルの普及に大きく貢献しました。彼は雑誌メンズクラブでの連載や広告を通じて若者に新しい着こなしを提示するとともに、著作を通してトラッドの精神やスタイルを体系的に紹介し、トラッド文化を日本の若者ファッションに深く根付かせる役割を果たしました。

特に彼の著作『トラッド覚え書』(1976年)は、アイビーやトラッドに造詣の深い彼自身による正統派ファッションガイドで、豊富なカラー図版と体験をもとに記したエピソードを盛り込み、奥の深いトラッドファッションの世界を案内しています。また、『トラッド歳時記』では、季節ごとの服装や小物、素材の選び方まで詳しく解説されており、日本独自のトラッドスタイルを日常生活で楽しむための具体的な知識が豊富に紹介されています。

トラッド文化は、単なる服装の流行に留まらず、学業やライフスタイルにおける「知的で洗練された若者像」を象徴し、カウンターカルチャーとは異なる一つの若者文化の表現として大きな役割を果たしました。