Welcome to The Culture Museum!|TAKE IVY
カジュアルの革命、TAKE IVY
1960年代の日本にはまだ海外のライフスタイルがあまり知られていない時代。
そんな時代に、ある一冊の写真集が出版された。
それがTAKE IVYという新鮮で洗練されたアメリカの若者のメンズファッションスタイルを収めた伝説のIVY写真集である。
「よく学び・よく遊べ」
当時のアメリカのアイビーリーグの学生達はまさにそのお手本だった。
彼らの着ていたファッションがIVYスタイルである。
このTAKE IVYに魅せられた多くの日本の若者が、アイビーリーガー達のカレッジ・ファッションを研究し取り入れられ、日本のキャンパスライフ全般にも影響を与えることとなった。
「TAKE IVY」 1965年(昭和40年)9月20日 初版発行
1965年(昭和40年)に婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)から発行。
※ちなみにTAKE IVYのタイトルは、デイヴ・ブルーベック・カルテットDave Brubeckの名曲ジャズソング1959年リリース「Take Five」から引用されたといわれている。
TAKE IVYは、1960年代のアイビーリーグの学生の服装を記録した1965年のカレッジ・ファッションの写真集である。
“アイビー”とはアメリカ東海岸の名門8大学の俗称である。彼らのスタイルがアイビー・ルックと呼ばれる。
また、アメリカの有名大学進学を目指す名門私立学校(プレパラトリー・スクール)に通う学生達のファッションスタイルをプレッピー・ルックと呼ばれる。
TAKE IVYは、日本の写真家とメンズスタイル愛好家によって執筆され、1960年代初頭のアイビーリーグに通う学生たちのキャンパスで撮影された率直な写真のコレクション集です。
著者は「VAN」創業者の石津謙介の長男 石津祥介氏、くろすとしゆき氏、長谷川元(はじめ)氏、カメラマンは林田昭慶(てるよし)氏、イラストは穂積和夫氏。
1965年のブラウン大学、プリンストン大学、イエール大、ダートマス大学などの大学生の服装に焦点を当てながらアイビールックを紹介しています。
キャンパス内での食事や、くつろぐ場面、自転車に乗っている場面、ボートハウス内の場面、図書館やクラスで勉強する場面に、学生達がアメリカ製の衣料で様々なラフな着こなしをしています。
この数々の写真で見るアイビールックが当時の日本の若者に鮮烈な刺激を与えたのです。それは単なるファッション写真集とは異なり、そこにはアイビーリーガーらしい調和の取れた生活が映し出されていたのです。まさにアイビーリーガー達のライフスタイル写真集なのです。
「健康な身体には健全な精神が宿る」という伝統的な考え方に、「よく学び、よく遊べ」というアメリカ式の合理性が、アイビーリーガーたちのラフでカジュアルなファッションスタイルを創り出していたのです。
そして、このアイビーリーガーのカレッジライフとその周辺のアメリカの生活文化を知ることで、日本の若者に日常的で且つ、健康的な豊かな生活文化を目指すライフスタイル全般にも影響を与えたのです。
ニューヨークタイムス紙は、この写真集を「ファッションインサイダーの宝物」と表現し、TAKE IVYは、世界中のアイビー愛好家の聖書として称賛されている。
*ウィキペディア・メンズクラブから一部引用
出典 TAKE IVY 1965年9月 初版
1960年代初頭、日本にはすでにアイビールックが流行していた。
実はTAKE IVYの発行以前から日本には数々のアイビールックを提案した雑誌が存在していました。
1950年代にVAN JACKET創業者の石津謙介がメンズファッションの基礎を提案してトラディショナルな男の服飾を雑誌などで紹介していました。ちなみに、アイビーを日本に初めて紹介した人が石津謙介氏なのである。
50年代はこのTAKE IVYのようなカレッジ・スタイルではなくトラッドの基本的な男の服飾スタイルを提案していたのです。
そして、1964年に戦後世代のアイビー青年をターゲットにしぼり、世界の若者文化を積極的にとりあげた日本初の若者向けメンズ雑誌「平凡パンチ」が平凡出版(現 マガジンハウス)から創刊されたのである。
この平凡パンチは、これからの日本の若者にライフスタイルをより活動的になることを目的に、社会事象や世界の若者文化事情、車、ファッション、ヌードまで様々な若者向けのライフスタイル情報誌となっている。
平凡パンチ 創刊号 1964年 表紙イラストレーション:大橋歩
表紙には、創刊号から大橋歩の「アイビールックの若者達」を描いたイラストを採用したのである。
その後、表紙には様々なアイビールックの若者達を描いたイラストを掲載し、若者のお洒落なライフスタイルシーンを想像させていったのです。
編集は清水達夫氏、イラストレーションは、大橋歩氏、穂積和夫氏など、撮影は、三木淳氏など。
こちらのWEEKLY MEN’S CORNERでは、数ページに渡りデザインを石津謙介氏、イラストを穂積和夫氏が担当。
石津謙介が提唱したT.P.O(TIME・PLACE・OCCASION)という、時と場所と場合で選ぶファッションや、ニッポン調スポーツシャツなど様々なファッション提案を日本式アイビー流に紹介していったのです。
出典 平凡パンチ 創刊号 1964年
この若者のライフスタイルマガジンは、後年に続く様々な若者向けの雑誌に影響を与えた。
時は流れ、70年代に入ると平凡出版から次々と新しい若者向け雑誌ポパイやブルータスなどが創刊されて、時代の変化と共に次の雑誌へと引き継ぐこととなった。
1965年に入ると、TAKE IVYが発売されるほんの数ヶ月前にMEN’S CLUB メンズクラブから「アイビー特集号」が出版された。
MEN'S CLUB 43号 1965年 6月 婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)
「アイビー特集号」
THE IVY LEAGUER'S HANDBOOKと表紙にはタイトルが付きモノクロのアイビーリーガー達の写真が大きく掲載されている。
メンズクラブは、婦人画報社から1954年に婦人画報増刊『 男の服飾』として創刊され、1963年に『メンズクラブ』と改称された。日本最古のファッション雑誌とされており、現在も続いている。「メンクラ」などと略されることもある。
創刊当時からアイビールックに追求してトラディッショナルなスタイルを掲載し続けてきた。
この「アイビー特集号」は、メンズクラブにとっても力の入った内容である。
アイビールックの特集がほぼ全ページにわたって編集されたアイビー研究において素晴らしい内容となっている。
石津謙介氏によるアイビーフィロソフィー的なとても興味深い内容が詳しく説明されている。
イラストレーションは、穂積和夫氏によるもの。
アイビーを目指す小中学生のアイビーボーイ、高校生・大学生のアイビーリーガー、かっこいい大人になるヤングエクゼクティブ、そしてかっこいいアイビーじじいのオールドアイビーまでのアイビースタイルを解説したとても面白い内容だ。
そして、本誌の目玉は特に現地取材のアイビーリーグの紹介だ。
カレッジファッションの内容が豊富で、まさにTAKE IVYなのである。
アイビースクラップコーナーでは、石津祥介氏によって、スナップ写真を解説しながらとてもいきいきと現地アイビーリーガー達のライフスタイルを伝えている。
現地取材は、TAKE IVY同様に、健康的なカレッジライフを中心テーマに様々なアイビールックの紹介がされています。また、その周辺の幅広い年代のアイビースタイルも紹介。
特にバミューダースタイルは、当時の若者の間で流行していたのでしょう。
マドラスチェックのスポーツジャケットやシャツなどスポーツカジュアルなファッションスタイルが多く紹介されています。
アイビーリーガーが聞く音楽や、当時のアイビールックの映画などを紹介。「アイビーリーガーおすすめの100枚LP」や「アイビー名画座」など。
オススメLPでは、スウィングジャズ、モダンジャズ、ボーカルジャズの紹介。
オススメ映画では「TALL STORY」、日本名は「のっぽ物語」を始め、「ボーイ・ハント」「ティファニーで朝食を」など。
次に、IVY SISTERとして、女性版IVYスタイルも紹介している。
アイビーシスターとして、女性のアイビールックの様々な提案が約10ページも掲載されておりアイビー女子も必見の内容です。
ファッション・ヘアースタイル・小物など様々なアイビールックの女性版である。
さらに、アイビーの食事や、ファッションスタイルの用語などの全ページに渡ってアイビーにまつわる様々な面白い特集がコーナー毎に編集されています。
アイビーの食事は、ハンバーガーを紹介。当時はハンバーガーもとても珍しいものであった。
VAN JACKETのワードローブに関する記事も様々なページに掲載されており、日本式アイビーとして日本のアイビールックの提案が本誌のもう一つの目的であるのだろう。
出典 MEN'S CLUB 43号「アイビー特集号」1965年6月
TAKE IVY出版以降、メンズクラブは、日本の若者のアイビー愛好家が増えていく中、次々と「アイビー特集号」を発行していった。
そして、歴史的にアイビーの研究資料として後世に残す目的でまとめられた「ALL ABOUT IVY」が出版されたのです。
MEN'S CLUB増刊 アイビー特集号 ー 合本
ALL ABOUT IVY 1976年4月25日 発行
このALL ABOUT IVYはとても貴重なアイビーの資料価値を残す目的として歴史的アイビーアーカイブの決定版として発行されたものです。
過去のメンズクラブが出版したアイビー特集号の第1集から第4集を一つにまとめた合本であり、表紙を布貼りハードカバーにした豪華版です。
ある意味において、IVY研究においてはこのALL ABOUT IVYさえあれば全てが理解できる内容となっている。
MEN`S CLUB 1972年 1月号増刊<アイビー特集号・第1集> No.123
MEN`S CLUB 1973年 1月号増刊<アイビー特集号・第2集> No.136
MEN`S CLUB 1974年 1月号増刊<アイビー特集号・第3集> No.149
MEN`S CLUB 1975年 1月号増刊<アイビー特集号・第4集> No.167
出典 MEN'S CLUB増刊 アイビー特集号 ALL ABOUT IVY 1976年4月
日本におけるTAKE IVYの流れ(ジャパン・アイビー史)
1960年代の日本のメンズファッションに大きな影響を与えた、アイビールック。そのアイビーリーガー達のアイビールックは、これからの日本の若者の生き方に健康的な生活を過ごす日常着として取り入れられました。
それは「よく学び・よく遊べ」というアイビー精神がベースになっていたからです。
この時代は後に、アイビー草創期と呼ばれるようになり、1960年代の第一次アイビーの時代をVAN JACKETという石津謙介が創業したジャパンメイドのアイビーファッションブランドがこのアイビー精神を日本流に落とし込み牽引したのです。
特に1964年の東京オリンピックの年、この石津謙介の熱心なアイビー精神が日本の若者に影響を与え、銀座に「みゆき族」とよばれるアイビー族まで出現するほどの大流行になったのです。
1965年にはアイビー全盛期に入り1970年ごろまで流行が続きました。VANをはじめブルックスブラザーズやJプレスなどがその時代の代表ブランドとなりました。その後、時代が変革時期を迎えるのと同時にファッションも新たなモードを若者が選択し始め、徐々にアイビーが衰退期に入ります。
しかし、1975年になるとヘビーデューティー(実用的で丈夫なもの)が注目を集めると次第にヘビーデューティー要素のアイビールックが、時代と共に徐々に変化していき、新しいアイビールックが再度注目し始めたのです。
この第2次アイビー期においてはヘビーデューティーアイビーと呼ばれるように、質実剛健な丈夫なファッションアイテムやギアをアイビールックに取り入れていったのです。
当時はアウトドアーという言葉がまだない時代であり、現代のアウトドアーやワークファッションがそれに近いスタイルです。メイドインUSA物のワークブランドやアウトドアーブランド、スポーツブランドがその中心的な役割となりました。ラグビーシャツやトレイルパンツ、マウンテンパーカーなどのヘビーデューティーアイテムがアイビーに融合されていったのです。
1979年代に入り、アイビーはさらに進化を遂げていきます。
1980年代にはプレッピーアイビーが登場。ラルフローレンなどがその代表ブランドとされ、アイビーリバイバル期を創造していったのです。第3次アイビーの時代はプレッピーアイビーの時代とされ、ニューアイビーに見られるような、より自由な着こなしをアイビーに取り入れられました。1985年ごろまでがプレッピールックが大流行していきます。
1985年代以降には時代はDCブランドのようなインディペンデントファッションや、アメカジ・渋カジのようなストリートファッション、一方インポートのラグジュアリーなヨーロピアンファッションなど、様々なファッションスタイルが広がり始めていったのです。それに伴い、アイビーは徐々に衰退していったのです。
そして現在、トラッドやプレッピー、ヘビーデューティーのような多種多様なアイビーが再び注目され始めているのです。ある意味において老若男女から支持されているのです。当時のブルックスブラザーズ、ラルフローレン、カレッジ系のコープの古着なども再注目されています。ユニクロやビームスなどで見られるような、ニュー・スタンダードアイテムとしてのアイビーの復活が期待されています。
カジュアルの革命、TAKE IVY
このTAKE IVYが提案したアイビーは、すでに60年ほどの長い年月が過ぎていますが、時代は変化しながらこのアイビー精神は今もなお健在であり、さらに輝きがましているようにも見えてきます。
TAKE IVYをきっかけに日本の若者は、日常がより健康的で知的であると共に、快適で自由なカジュアルなライフスタイルを目指しながら何度も繰り返して、時代と共にこのアイビー精神を受け継いでいるのです。
それは、伝統的なトラッドスタイルをより日常的なカジュアルスタイルに変革させた、まさにTAKE IVY革命だったのです。
今回ご紹介したTAKE IVYをはじめとした若者に影響を与えた素晴らしい名書・名雑誌は、貴重な若者文化資料の永久保存版としての価値があり、いつの時代でも色褪せずに私たちに新鮮なメッセージを届けてくれるのです。
Text by Gene - SPs.
出典・引用・参考文献:wikipedia/pinterest/AMETORA (DU BOOKS)/「TAKE IVY」1965年(昭和40年)9月20日 婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)/MEN'S CLUB 43号 1965年 6月 婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)/MEN'S CLUB増刊 アイビー特集号 合本ALL ABOUT IVY 1976年4月25日 婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)/平凡パンチ 創刊号 1964年 平凡出版(現・マガジンハウス)